- 当社の使命
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育苗業の業務とは、端的に言えば野菜の苗を一定程度まで育て、主として生産農家等に販売する業務です。
育苗業が顧客生産農家に提供する価値は、主に次の2点①苗の安定供給
・昨今、生産農家は苗を自家栽培せずに、外部の育苗業者から苗を購入する傾向が強くなっています。
背景には生産農家の労働力不足があり、苗作りの外注化で労働力不足を補っている状況です。
・従って、苗の安定的な供給体制を作ることは、生産農家に対する育苗業者の指名であり、存在価値であると言えます。②高品質の苗の生産
・苗に求められる品質として、病気や気象条件の変化に強いこと、取れ高の大きい作物であること、等が挙げられます。
・苗の品質が農家の収穫高に大きく影響するので、品質の良い苗を育てる事は育苗業の重要な使命となります。 - 当社の強み
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当社は薄利多売型ではなく、品質の良い苗を適正価格で販売するビジネスを志向としています。
当社の強みは、供給する苗の品質の高さであり、品質に関するクレームはこの5年だけを見ても、ほぼありません。
コスト志向の強い一部の顧客は、1円でも安価な苗を求めて競合他社へ購買先を変える場合もあるが、他派の安価な苗は品質が劣るとの理由で、当社に戻ってくることも多い。
集客に関しては、営業部隊を設けていないにも関わらず、口コミ・紹介のみで顧客数増加・売上伸長しており、当社苗の価格・品質が顧客から評価されているものと考えています。 - こだわりの詰まった土作り
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- 育苗の工程について
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育苗工程全体と重要工程について説明します。
1)育苗作業の流れ
種まき(播種)から接ぎ木を経て苗が十分に成育し、出荷されるまでの流れは次の図の通りです。
全工程(播種~二次育苗終了まで)に要する期間は作物によっても異なるが、概ね40~60日間。【育苗工程】
①播種(はしゅ):種まき用のトレーに種をまく。
②一次育苗:接ぎ木の元になる「台木」と「穂木」の成育工程。
③接ぎ木:台木の上に穂木をつなぎ合わせる作業。
④養生:接ぎ木した苗を養生室で成育させる。
⑤二次育苗:苗を養生室から出し、温室内で成育させる。
⑥出荷:顧客へ出荷。2)育苗で重要な2つの工程
①重要工程その1:接ぎ木
苗の生産において、「接ぎ木」は苗の品質を高める重要な工程となります。
接ぎ木とは、2種類の植物をつなぎ合わせることを言います。目的は2種類のそれぞれの長所を兼ね揃えた苗を作るためです。例えば、「病気に強く根の張りが良い植物」と「味の良い実がなる植物」を接ぎ木する事で、「強くて美味しい実がなる苗」が出来ます。つまり品質が向上し、作物の収穫量(歩留まり)も向上することになります。
接ぎ木作業は次図の様に、穂木と台木という2種類を縦方向につないでいきます。
作業は、接合部分を専用のクリップで留める方法で行います。こうした接ぎ木の作業は一本一本手作業で行うため、非常に人手と時間がかかる作業となります。<接ぎ木の利点>
・収量が増加する。接ぎ木しない苗と比較して、20~30%程の収穫量が増加する。
・寒さ・暑さなど環境に強くなる
・連絡障害に強くなる
注)連作障害:同じ野菜や同じ科の野菜を同じ場所で繰り返し作ると、次第に生育不良となる現象が発生する。これを「連作障害」という。②重要工程その2:養生工程
「養生」は接ぎ木した苗を生育させる上で大切な工程となります。接ぎ木作業では植物をカットして人工的につなぎ合わせるので、植物はダメージを受けた状態であり、放置すると枯れてしまい商品になりません。そのダメージを受けた苗を回復させながら、台木と穂木を活着させるために、養生室という部屋の中で「温度、湿度、光」を管理しながら7日ほど「養生」する必要があります。この養生により、その後の苗の生育品質が大きく変わってきてしまいます。
※活着=台木と穂木の接合面の細胞変化により、両者の間に養分・水分の流動がおこり、新しい個体の癒合・生育が始まること。 - 当社の課題とその解決方針
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①当社の課題
農家の労働力不足、高齢化により今後も育苗業と農業の分業(苗を作る者と苗から育てて収穫する者)が進み今後も増大が見込まれる苗の需要に応え生産量を拡大し、当社の成長を図るには、次の課題がありました。A)接ぎ木の手作業依存の問題
接ぎ木工程は現状全て手作業で行っていましたが、作業は非常に細かい。小さな苗木をカッターで斜めに切り取り断面を小さなクリップでつなぎ合わせる作業であり、指先による細かくて正確な作業が要求されます。したがって作業時間を要し、生産性は低い。
また習熟期間も適性も要求される作業であり、適性の無い人は辞めてしまう。
当社も人手に過度に頼る状況を改善する必要がありました。表「接ぎ木の作業生産性(現状)」
作業者習熟度区分 接ぎ木速度 補足説明
一般作業者 50~100本/時間 作業経験6か月未満の場合。人によるバラツキは大きい。
習熟作業者 150本/時間 6カ月以上の作業経験があり、かつ作業適性が高い作業員の場合B)人手不足と労働力確保の問題
農家や他の職種と同様に育苗業の現場でも労働力の不足傾向が続いています。
育苗の現場は接ぎ木を含め手作業が多く、人手に頼る場面が多い。細かい作業や運搬など力仕事も含むので比較的若い労働力を必要としているが人材の調達は難しく技能実習生や高齢のアルバイトを雇いしのいでいる状況。②課題の解決方法
【課題】生産性の向上
①接ぎ木作業の改善 ・接ぎ木の工程では手作業で行っているが、機械化により生産性(作業の速度と正確性)を高める方策が必要。
②養生工程の改善 ・現在の養生室の生産キャパシティ不足を改善し、ボトルネックを解消する事が必要。
・接ぎ木した苗の品質を均一化・向上させることが必要。
③労働力の確保 ・人口減少・人材確保難の時代にあって人の採用努力も重要だが、並行して作業員当たり生産性の向上策も必要。
【解決の方針】接ぎ木~養生工程の機械化・処理力向上 →「育苗工場化」
機械化・新設備導入によって苗作りを工業生産と同様に捉えて、生産性・品質向上を図る。これにより農家への良質な苗の安定供給を推進し、当社の業績向上を図る。③今後の取り組み詳細
前出の課題解決方針に沿って導入効果の高い設備の選定を行った結果、下記の設備を導入するに至りました。設備 ねらい 接ぎ木ロボット ・接ぎ木ロボットを活用したオペレーションの改善を行う。
・生産性と作業の正確性を高め、人的スキルに頼る現状を改善する。LED型養生室 ・養生スペースの拡大と制御性能向上により、ボトルネック解消を図る。
・温度・湿度・光を24時間無人で自動制御し、最善の生育環境を確保する。特に光源はプレート型LEDを採用し、光の照射ムラを改善する。「接木ロボットGraft1100」
野菜苗の接木作業を行うオランダISO社製のロボット「Graft1100」
1.画一的かつ安定的な接木作業を実現
2.1時間あたりの接木本数は1,000本(最大)
3.「台木ホルダー」のサイズは、台木苗の規格に応じてカスタマイズ可能
4.水平接ぎと斜め接ぎの2パターン
5.穂木と台木を同時に切断
6.オペレーターは2名
7.機械の構造はシンプルで、操作方法も簡単④導入の効果
接ぎ木ロボットの導入により作業速度は約10倍になり、機械に張り付いて作業する人員数は2人で済む。
当社の年間ベースでの接ぎ木処理本数は約150万本であるがロボットを導入したことにより接ぎ木に投入する労働力を他の育苗作業に回すことが可能となりました。